上条さんくらいになると、きっと気が向いたときに誘う女性なんていくらでもいるのだろう。
それなのに前回会ってまだ一週間もたたない私を選んでくれたことが嬉しくてにやけそうになる頬を必死で抑える。
ただ、メッセージや履歴の一番上にあって連絡するのに楽だったからだとかが理由だったとしても十分だ。
こうして会えていることが嬉しくてその幸せをかみしめていると、コーヒーをテーブルに置いた上条さんがガラスの外を眺めながら口を開く。
「強いて言うなら、おまえが俺を好きだとか言うからだな」
「え?」
「俺は誰かひとりに固執したことはないし、恋愛感情を持ったこともない。興味もなかった。だから、都合がよさそうなら簡単に関係を持った時期もあった」
緑川さんが言っていたことを思い出す。
『昔はそれなりに多かったです。あの見た目で地位も収入もあるとすぐに女が寄ってくるんですよ。その中から後腐れなさそうなのを選んで適当に遊んでいた時期はありました』
恋愛に興味がないというのがどういうことなのか、私なりに想像してみるもうまくいかずに眉を寄せていると、上条さんがそんな私を見て聞く。
「最近、大きな賞をとった恋愛小説があるだろ。よくメディアに取り上げられてるから、たぶんおまえも一度や二度は目にしてる」
「あ、はい。さっきの本屋さんにも平積みで置いてありましたし、もう映画化の話も出てるだとかでSNSでもトレンドにあがってましたよね」



