「別に特別好きなわけじゃない。見分を広めておいて損はないからってだけだ」
「ああ、なるほど」

社長ともなれば会食だとかもたくさんありそうだし、そこで何が話題に挙がるかわからない。

普段から色々と時事に耳を傾けておく必要があって、今日手に取った小説もその一環でということなんだろう。

社長も大変だな……と感心しているうちに、頼んでいたドリンクが運ばれてくる。

半分ほどの席が埋まった落ち着いた店内。
店員さんが離れたところで話を切り出した。

「あの、どうして今日、私を誘ってくれたんですか?」

上条さんがわからなそうな顔で「は?」と聞いた瞬間ハッとする。
〝好きだから〟だとか、そういう答えを期待した鬱陶しい質問にとられたかもしれないと思い、慌てて「違うんです」と否定した。

「その、同僚に、今の上条さんと私の関係はあまりに上条さんに得るものがないんじゃないかって言われて。私がその、触らないでほしいとか言ってるから。私も言われて考えてみたらその通りだなって思ったので……なんでなのかなって」

後藤が言った通りに説明するのは下品すぎるので、オブラートに包んで伝える。
言葉をだいぶ選んだので遠回りにはなったけれど、言いたいことはわかったようで、上条さんは「そういう意味か」とつぶやいたあと、コーヒーに手を伸ばす。

「別に。気が向いただけで意味はない」
「……なるほど」