それにしても、レストランにしてもこのカフェにしても気を張らずにすむというか、どこか居心地の良さがある。

そう話すと、上条さんは、広さに対しての席数だとかスタッフの動線だとか、配置だとか、色々バランスが重要なんだと教えてくれた。

見た目からするとクールだったり冷たそうに見える上条さんだけれど、実際は結構なんでも話してくれる。おしゃべりというわけではないにしても、口数はそこまで少なくはない。

「この店には時間が空くとひとりでも結構寄る。初めて手掛けた店だから思い入れだとかそういうものもあるにしても、単純に気に入ってるんだ」

一組のカップルが注文を済ませるのを待ちながら上条さんが話す。

「え、じゃあここで待ってたら偶然会えるかもしれないんですね」

ここなら会社からも家からもそう遠くない。
私も暇なときはここにきて時間を潰して、あわよくば……と考えていると、ひとりわくわくしている私を見た上条さんが苦笑いをこぼした。

「おまえは本気で待ち伏せしそうだから怖い。まぁ、俺に会う前に緑川に捕まりそうだけどな」
「大丈夫です。それくらいじゃへこたれないので」

笑顔で返したところで、番がきてレジ前に進む。
上条さんはアイスコーヒーを、私はキャラメルラテを頼み、窓際の席に腰を下ろす。

ガラスの向こう側は通路なので、ビジネスマンや学生が歩いている様子を眺めてから上条さんに視線を向けた。

「本、好きなんですね」

さっき上条さんが買ったのは、今話題の推理小説だ。
読書家だとは思わなかったので正直意外だったと伝えると、上条さんはそっけなく答える。