「はい」

携帯からすぐに『俺』という声が聞こえ、胸がギュッと掴まれたみたいに苦しくなる。

人通りも車の通りも途切れない大通り。
上条さんの声を聞き逃したくなくて携帯を耳に押し付けた。

『明後日、時間あるか?』
「明後日……? 金曜日ですよね? 仕事の後だったら大丈夫ですけど……」
『じゃあ、仕事が終わったら連絡しろ。車で迎えに行く』
「え」
『俺が行きたい場所に付き合うって言っただろ。じゃあな』

私の返事を待たずに切れた電話に、しばらく呆然としていたけれど、そのうちにハッとしてすぐに店内に戻る。

そして、レバーの串を食べている後藤に勢いよく近づき肩をつかんだ。

「上条さん、なんだって?」

とくに驚く様子も見せずに聞く後藤に興奮気味に答える。

「金曜日、時間あるかって……また会ってくれるって。どうしよう、なんか自分の身に起こってることが幸せすぎて信じられないんだけど」

椅子に座りながら言った私に、後藤はやや呆れた顔を浮かべた。

「いや、そこまでの幸せでもないだろ。たかがデートだし。それにしても上条さんって変わってるんだな。俺だったらなにもさせてくれないって宣言してる女なんか絶対誘わないけどな……って、なにそれ」

私がバッグから取り出したお守りを見た後藤が聞く。

「上条さんがくれたお守り。なんのご利益があるか知らないけど、もしかしたら恋愛成就のお守りだったのかな」