「え、どうしよう」
「いや、知らないけど。っていうかさ、そもそもの始まりがワンナイトだったわけじゃん。なのに今更プラトニックぶるのは意味あるのか?」

片眉を上げて聞かれる。

「あの日はお酒も入ってたし、なにより浮かれてたから! 今はちゃんと好きだし、好きになったら適当な気持ちではそういうことできないよ。上条さんだって、私の気持ちを知っている以上、キスするのもサービス的な意識でいるのかもしれないし、そんな気遣いとか無理はさせたくないって……」
「あーあ。高坂がもったいぶるから、もう上条さん、連絡してこないかもなぁ」
「だからもったいぶってるとかじゃなくて、会った日とは気持ちの変化が――」

後藤の腕を掴んでグイグイと揺らしていたとき、カウンターテーブルの上に置いてあった携帯が震えた。

「あ、ほらほら、電話」

ケタケタと笑いながら指摘する後藤は完全に私をからかっていて、恨めしく思いながら携帯を確認する。
でも、そんな八つ当たりからくる怒りは液晶画面に表示されていた上条さんの名前を見た途端、綺麗に消えた。

私の手元を覗き込んだ後藤が「噂をすれば、だな」と言ってから、不可解そうに首を傾げた。

「やれない女になんの用だろ」

下品な物言いをする後藤の肩を叩いてから携帯を持って外に出る。

八月後半の夜の空気は、まだまだ熱を含んだままで、湿気も加わり肌にまとわりつくようだった。いつもならうんざりするところだけれど、今は気温にも湿度にも文句のひとつも出てこない。

ドキドキしながら通話ボタンを押した。