高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―




「え、それって上条さんにとってなんの得もないじゃん」

翌週の水曜日。
会社帰りに待ち合わせた焼き鳥店で、カウンター席の隣に座った後藤がハッキリと言う。

どこの会社でも水曜日はノー残業デーなのか、十九時半の店内は八割方の席が埋まっていた。

ひと串八十九円からというコスパの良さや、開放感のある店内は居心地がいい。
レンガ柄の壁紙や可愛らしいペンダントライトがかもしだすオシャレな雰囲気は女性に人気らしく、半分ほどが女性のグループだった。

「得……?」と返した私に、後藤がネギマを食べながら言う。

「そりゃあ高坂は上条さんが好きだから会えるだけで嬉しいんだろうけど、上条さんからしたら好きでもない女にわざわざ時間割くのにセックスどころかキスもなしって、ただの時間の無駄じゃん」
「それは貞操観念がどうかしてる後藤だから思うだけで……」

話し出したものの、途中でそれ以上言えなくなる。
あまりに後藤がずけずけ言うからつい反論したくはなったけれど、よくよく考えてみればその通りかもしれない。

上条さんは私のことを好きかどうかもわからないと話していた。
つまり、今のところなんとも思われていないってことだ。そんな相手にわざわざ時間を割いて会おうなんて思う?
メリットもないのに?

だったら、誰か他の女性と会った方が上条さんにとっては有意義な時間が過ごせるはずだ。

熟考してみると、たしかに後藤の言う通り私にしか得がない。
もしかして私、上条さんが私に会おうとしてくれる可能性を自ら捨てたんじゃ……。