高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―



短い黒髪の男性は二十代後半くらいだろうか……とぼんやり眺めていると、その男性が私を見るなり目つきを険しくするので心臓がギクッとした。

睨まれている……というのももちろんあるにしても、たぶん、もともと強面の人なんだろう。
顔立ちは整ってはいるものの、一重の目の鋭さもオーラも怖いので、完全にその筋の人に見えて一歩たじろぐ。

「この店になんの用ですか?」と、見た目通りのきつい口調で問われ内心おどおどしながらも、足をぐっと踏みしめ、思い切って「あの」と声をかけた。

店内に入れない私にとって、これはチャンスだ。

「このお店の中にいる男性に用事があるんですけど、呼んでいただくことは可能ですか? 上条さんっていう人で、私、昼間に……」

でも、話し出したところで、ハッとする。
お店の指定はされたけれど、上条さんがここにいるとは限らない可能性に気付いたからだった。

私の分の食事代は払っておくから好きに食べていけばいいという意味合いだったとしたら、上条さんはここには今いないかもしれない。

そう思い言葉に詰まった私を、近づいてきた男性がじとっとした目つきで見た。