高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―



「どうかしたか?」と、心の底から不思議そうに聞かれ、慌てて笑顔を作る。
キスしてくれようとしたことは、正直に言えばものすごく嬉しい。

でも。

「いえ、その、こういうことはしなくて大丈夫です」
「は?」
「まだきちんとお話するのは二回目ですけど、やっぱりちゃんと上条さんのこと好きだなって思っちゃったので……なので、こういうことはしません」

ハッキリと言った私に、上条さんは少し黙ったあと、眉を寄せる。

「矛盾してないか? 俺が好きなら……」
「好きだから、しなくていいんです」

上条さんは、本格的にわからないと言った表情を浮かべる。
腰に回った彼の手をやんわりと払ってから、一歩分距離をとって、目を合わせた。

「私は、上条さんが好きだから嬉しいです。抱きしめてもらえるのも、キスしてもらえるのも。一時でも、私に触れたいと思ってくれたなら、それだけですごく嬉しい」
「だったら……」
「でも、それは本当に一時だけだってもう知ってるから。一時は嬉しくても、そのあとずっと苦しいって知ってるから……だから、上条さんが私を好きになってくれるまではしたくないんです」

目を合わせ微笑んだ私に、上条さんは最後まで納得いかなそうに顔をしかめていた。