高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―



「……まぁ、いっか」

約束をすっぽかしてしまうよりは、すっぽかされた方が気が楽だ。男性がいなければ、スタッフに言付(ことづ)けを頼んで帰ればいい。

気持ちを切り替え、ショップカードに書いてある店名を携帯で検索した。


店名で検索してもいまいち有力な情報が載ってこなかったため、住所で検索をかけた。
マップが教える場所にあった建物は、路面店というよりはとても大きな一軒家という感じの建物だった。

建物を囲むようにぐるっと並んでいる白いアイアンフェンスの雰囲気が可愛い。
まるで、おとぎ話に出てくる鳥かごのようなレトロ感がある。

水色ともグレーとも言えるような外壁に、黒く立体的なローマ字が並んでいる。
スポットライトに照らされている文字は〝polishcube〟。

どうやらここであっているようではあるものの、営業中をうたう看板などは見当たらないし、中から賑やかな声が聞こえてくるわけでもない。

二階建ての建物には大きな四角い窓が並んでいて、レースのカーテン越しに室内のオレンジ色の明かりが漏れていた。

もしもここがチェーン店のような飲食店だったら迷わず入ったところだけど、さすがにこんな雰囲気のあるお店にスッと入る度胸はない。

でも、いつまでもここで待っていたところで時間の無駄なのはわかるだけに、どうしよう……と思い悩んでいたとき、中からひとり、スーツ姿の知らない男性が姿を現した。