高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―



自分でも驚くほどに胸がときめてしまって、息苦しい。

私は別に、うぬぼれるつもりも、この恋が叶う可能性を信じるつもりもなかったのに……そんな顔でそんなことを言うなんて反則だ。

身の程知らずにも期待してしまう。

苦しくなった呼吸をひとつ整えてからフォークをそっと置き、胸の前で手を握り締めた。

「その、私の気持ちはバレてますよね?」

ひと晩過ごして、そのまま終わりにしたくなくてデートしたいってお願いしたのだから、私の好意は十中八九伝わっているはずだ。

私が急にこんなことを言いだすとは思っていなかったのか、上条さんはやや驚いた様子で「まぁ……それなりにはわかってる」とうなずいた。

「私の気持ちをわかった上で、喜ばせたいと考えてくれたなんて聞かされたら、私、勘違いしますし、可能性あるなしに関係なく、頑張っていいんだって奮起しちゃいますけど……いいんですか?」

上条さんが目を見開く。

「声が聞きたくなって電話したり、会いたくなって待ち伏せしたりするかもしれないですけど、上条さんはそれでいいんですか?」

念を押して確認した私に、上条さんは眉を寄せたまましばらく黙った。
そのあと、気が抜けたような笑みを浮かべる。

「緑川がおまえのことを〝素直すぎて逆に裏があるようで気味が悪い〟って言っていた意味が今わかった」

緑川さん、そんなふうに言っていたのか……と苦笑いを浮かべていると、上条さんが続ける。