クルーザー二階部分にあるレストランで食べたコースはとてもおいしかった。
懐石仕立てのオードブルから始まり、伊勢海老の炒め物や中華おこわなどと続き、最後はデザートの盛り合わせ。
船内という特別なシチュエーションがプラスされていたとしても、出てきた料理はどれもほっぺが落ちそうなほどおいしくて、実際に顔は緩みっぱなしだったと思う。
そんな私を上条さんは頬を緩めて見ていた。
毒気の抜かれたやわらかい微笑みには胸がドキッとしたけれど、単純に呆れられている可能性が高いので素直にときめいてもいられない。
白い大きな平皿の上に載っているケーキやフルーツはまるでアートのように美しいので、やっぱり口角が勝手に上がりそうになったものの、それをぐっと耐え気を引き締めた。
でも、そんな私を見た上条さんは気に入らなそうに眉を寄せた。
「どうかしたか?」
「え?」
「乗船してからずっと楽しそうだったのに、急に表情が変わった」
まさか指摘されるとは思ってもいなかっただけに、驚く。
それに、上条さんが私の表情を気にして見ていたのも意外だった。
「あ……はい。だって、また〝美味しい〟しか言えなくて試食会の二の舞状態になってるから、上条さんに呆れられちゃってるかなって心配になって。せめて顔だけは引き締めようと頑張ってました」
「おまえには難しい意見は求めてないって話しただろ。それに、今日のこれは〝デート〟なんだろ? だったら、余計なことは考えずにただ楽しんでいればいい。今はそういう時間だ」
優しい言葉と声色に、少しドキッとしながらも口を尖らせた。



