高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―



「豪華か?」
「豪華ですよ。こんなの、とびきりのデートコースです。普通だったらプロポーズするくらいのレベルです。だから、上条さんがわざわざ私相手にこんなデートを用意してくれたのが不思議で仕方ないんです」

自分を卑下するつもりはない。
それでも、上条さんからしたら、悲しいことにたくさんいるワンナイトラブの相手のうちのひとりでしかない。

そんな私から〝デートしたい〟と言われて連れてくるような場所じゃない。

だから「どうしてですか?」と聞くと、上条さんは私をじっと見てからふっと笑う。

「さぁな」
「……誤魔化してます?」
「それより、もうすぐ食事になる。迷子にならないようにちゃんとついてこいよ」

歩きだした上条さんの背中に向かい、顔をしかめる。

答えを誤魔化されたのか、そもそもただの気まぐれで答えなんてないのか……ふたつの可能性を考えているうちに、きっと、上条さんにとっては意味なんてないんだろうなと自分の中で答えが出る。

私は上条さんに惹かれているから、なにかしらこのデートに意味が欲しくてあんなふうに聞いたけれど、上条さんからしたらうっとうしかっただけかもしれない。

せっかくこんな素敵なデートに連れて来てくれたのだから、これ以上余計なことは言わずにただ楽しんだ方がいい。

そう割り切り、上条さんに続いて階段を下りた。