高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―



けれど上条さんは「俺も合意だと捉えているし、謝るつもりはない」と言うので、ホッとした半面、だったら今日のこの素敵すぎるデートコースはなんなんだろうと、今度は別の疑問が湧いていた。

きっとそれが顔にも表れていたんだろう。
上条さんは手すりに肘をつき、頬杖をついた状態で私を見る。

「なにがそんなに不満なんだ。デートがしたいって言ったのは、おまえだろう?」
「え……あ、はい。そうですけど……こんなスペシャル版じゃなくて、私はもっと、普通のデートを想像してたので」
「普通?」
「はい。普通……というか、私は上条さんに会いたかっただけだし、場所はどこでも大丈夫なんです。そのへんの公園で缶コーヒーを飲むだけでも、駅構内で立ち話するだけでも。あ、でも、わがまま言ってもいいなら、上条さんが楽しいと思う場所が知りたいし行きたいですけど」

わからなそうに聞き返されたので、つい思うままを口にしたものの、今の発言が失礼になる可能性に遅れて気付く。
慌てて上条さんを見た。

「あ、ここに連れてきてもらったことに不満があるわけじゃないんです! すっごく嬉しいです! ただ、あまりに豪華すぎるというか、夢みたいなデートだから……こんなの用意されたら、なにか裏があるのかなって思うじゃないですか」