「今日、これからの予定は?」
あまりに美形すぎて目を奪われていたけれど、男性に聞かれてハッとする。
低く響きのいい声だった。
「予定……? えっと、これから試験を受けて、直帰ですけど……」
なんで予定を聞かれているのかわからないまま、さきほど会社を出る際に記したホワイトボードを思い出す。
答えた私に、男性はスーツの内ポケットからお財布を取り出すと、その中から名刺サイズのカードを一枚とった。
「じゃあ、帰りにでも寄れ。俺も悪かったし、お詫びになにか食わせてやる」
差し出されたのは、ショップカードだった。
黒地の紙に金色で書かれている文字は〝polishcube〟。カードの左上には白い文字で〝カフェ&ディナー〟と記載されている。
ローマ字を目で追い「ポリッシュキューブ……」と、なんとなくで発音する。
「踏んだのがお守りじゃ、このままにしておくのは俺も後味が悪い」
「え……え?」
「店には〝上条〟で話を通しておく」
無表情のまま淡々と話した男性が、背中を向ける。
なにが起こったのかいまいち理解できず、しばらくそこでぼんやりしてしまったせいで、危うく試験に遅れるところだった。



