「でもそれ、三枚目が横書きなんです。縦横混在の場合は左上で止めるものだと、それこそ新入社員の頃習ったと記憶しているんですが……違いましたっけ? でも、部長がそこまで強くおっしゃるんですから違うんですよね。きっと。まさか中を確認もせずに注意するわけがないですもんね」
椅子に座ったまま言うと、部長は「え」と小さな声をもらして眉を寄せる。
そして三枚目が横書きだと確認した途端、バツが悪そうな笑みを浮かべた。
「ああ、いや……あれ、どうだったかなぁ。俺の頃とは変わったのかもなぁ」
「今から直しますね。不備があって部長に恥をかかせるところでしたので、きちんと部長から指示があって作り直したって付箋貼っておきますね。私以外もきっと縦横混在の場合は左上だと間違った認識をしていると思うので、他の社員にも言って徹底します。部長が言ってたから絶対だってしっかり伝えますので」
感情をこめずに白けた笑顔で言った私には気付かず、部長は慌てたような笑みを浮かべた。
「ああ、いや、このままで大丈夫だよ。その、他の社員への徹底もとりあえずは……ほら、営業だってそこまで気にしないだろうし。まぁ、あれだね。以後気を付けて」
いったいなにを?とは聞かずに「わかりました」と返事をし、そして、自席に戻る途中の部長の背中にこっそり舌を出す。
仕事のできない部長は、いちいち私のミスを指摘してくるけれど、基本的に間違っているのはいつも部長なので、言われっぱなしというわけではなく九割こうして撃退している。
でも、部長のパワハラには慣れたとはいえ、ストレスは溜まるので、今夜の飲み会で同期に聞いてもらおうと心に決め、パソコンの画面に視線を戻した。



