高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―



「祖母には〝受験が無事終わったら神様に返そう〟って言われてたんです。それなのに私、その約束を守らなかった。だから、今日ダメになっちゃったのは、上条さんのせいじゃなくて、すぐに神様に返さなかった私のせいなんだと思います。罰があたったのかも」

本当にそうなのだ。
いつまでも手放せず持っていた私が悪い。
上条さんのせいなんかじゃ間違ってもないし、もっと言えば……まぁ、あの歩きスマホの高校生のせいでもない。

私のせいだ。

なのに上条さんは「罰? ありえないだろ」と言いきった。

「大事にしてたんだろ。だったら、おまえは悪くない」

強い意思のこもった眼差しと声に、さっきは一度我慢した涙が頬を伝う。伝う、というよりは溢れたという表現の方が正しいかもしれない。

一度こぼれだした涙は、ポロポロなんて擬音で収まるような可愛い量じゃなかった。
顔を覆ってうつむいた私に、上条さんは焦ったような態度になり、ハンカチを差し出してくれた。

「すみません……でも、嬉しくて。そんなふうに言ってくれるのが、すごく、すごく嬉しくて……ありがとうございます、上条さん……」
「いいから、涙を拭け。……おまえ、アルコールは飲めるのか?」
「え……アルコール?」

突然聞かれる。涙の浮かぶ目で見ると、上条さんは困ったように微笑んで私を見ていた。
その笑みがあまりに魅力的で目を見開く。