高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―



その日の仕事を済ませ美波からのメッセージにあった住所の店に着いたのは、二十二時を回った頃だった。

タクシーを呼ばずに自らわざわざ店まで来たのは、このあと、俺の部屋にくる予定だから車で拾ってやろうという思いからであって、この飲み会に後藤も参加しているからではない。

近くのパーキングに車を停め、店に入る。

深い時間に差し掛かってきているからか、複数のテーブル席から素面では考えられないような笑い声が聞こえていた。

個室はなく、テーブル席のみという造りのおかげで美波の姿をすぐに発見する。
そのまま声をかけるのは、盛り上がっている手前はばかれ、仕方なく少し離れたテーブルの椅子を引き待つことにした。

飲み会は十九時からだったはずだ。俺の部屋に二十三時までにはくると話していたことを考えるとじきに終わるだろう。

店員にはウーロン茶をオーダーする。

「あの部長、前部署でもパワハラ三昧で新卒がひとり辞めたんだって。それが問題になって、美波のところに異動になったって話だったけど、やっぱりまだ懲りてなかったんだ。そういう人って周りに呆れられてるって気付かないものなのかなぁ」

美波の隣に座る同期の女性の声が自然と耳に入った。
盗み聞きするつもりはなかったが、意識せずとも聞こえてくるのでそのまま耳を傾けておく。

目をやると、美波は苦笑いを浮かべていた。