高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―




「どうかしたか?」
「いえ……あれ、どうしたらいいでしょうか」

〝あれ〟というのは、先日美波から緑川に手渡された封筒だろう。
あとから美波に聞いたところ、佐々岡さんの電話番号とIDが書かれているということだった。

込められているものが好意なのは火を見るよりも明らかで、それを緑川もわかっているからこそ悩んでいるようだった。

「仕事関係なく佐々岡さんが個人的に渡したものを、関係のない俺が判断するのはおかしいし誠意にもかける」
「ですが……」
「それに、そういうことに関しては緑川の方が要領よくこなすだろ」

緑川は、一度黙ってからわずかに眉を寄せた。

「放っておけば破り捨てるだけの社長に代わり、後々問題にならないよう、菓子折り片手に丁重にお断りしているだけです」

じとっとした目で告げられる。
心当たりがあるだけに何を言わずに視線を逸らした。

もともと社交性がある方ではないし、人間付き合いはできればしたくないのが本音だ。

それでも仕事ならば多少は無理をするが、プライベートでわざわざ連絡をとり言葉を交わすのは面倒でしかない。相手が女性ならなおさらだった。