上条さんは淡々と話したけれど、警察に相談するほどならば、結構な大事件だ。
私だったら、警察から犯人に注意がいったところであまり安心はできなそうだけれど、上条さんは本当にもう気にしていないように見えた。
男女の差はあるにしても若くして社長なんて役割をこなせる人は、常人とは感覚が違うのだろうか。
でも、そういう事件があったのなら、秘書の緑川さんが私を警戒するのも当然だと思い直す。
「そうなんですか……大変でしたね」
「別に珍しいことでもないしそこまでの問題でもない。最近は勘違いされるような言動は極力控えているから、追い回されていたのも昔の話だ。そもそも待ち伏せなりされても俺は男だし、最悪力づくでどうとでもなる。……それより」
そこで一度言葉を切った上条さんが私をじっと見据えた。
「お守り、踏んで悪かった」
形のいい目に見つめられ、ドキッと跳ねた心臓を隠すように笑顔を返す。
「あ、いえ。気にしないでください。本当に最初からボロボロでしたし……私の方こそすみません。こんな美味しい食事をご馳走になってしまって。上条さんからしたら、ぼったくられたみたいなものですよね」
お守りひとつで、こんな高そうな食事をおごらなければならなくなったのだから、と思いながら笑うと、上条さんは「いや」と小さな声で言い、目を伏せる。



