高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―



「いえ。ありがとうございます。日中話したときは、一方的だし強引な人なのかなって少し思ったんですけど、勘違いでした。本当は優しいんですね」

最後の一皿となったデザートが運ばれてくる。
シフォンケーキのようなふわふわした生地の上に、とろとろのティラミスのようなものが載っているケーキや、三層になっている抹茶のムース、たっぷりとした生クリームと輪切りのオレンジが載っているクリームブリュレ。

見ているだけでワクワクするような一皿に、「うわぁ……可愛い」と思わず声がもれた。
もちろん、見た目だけじゃなく味もよくて、本当に幸せな時間だとかみしめていて、ふと気付く。

そういえば、私をここまで案内してくれた、ちょっと失礼な男性の姿がない。
途中までは壁際に立って睨むように私を見ていたのに……と思いながら店内を見回す。

「あの、上条さんを社長って呼んでいた男性は、秘書さんですか?」
「ああ。緑川だな。会社設立当初から秘書として働いてもらってるが……なにか言われたか?」

図星を指され、苦笑いを浮かべる。
庇う義理もないけれど、告げ口も好きじゃない。それに、一応謝ってもくれている。

「あー……いえ。とくには。あの、上条さん、誰かに付きまとわれたりしてるんですか? 緑川さんがそんなようなことを言っていたので」
「まぁ、たまにある程度だけどな。直近でも一度あって、仕事関係で会食しただけなのに、なにを勘違いしたのか知らないが、やたらと付きまとってくるようになったから警察に相談したところだ」
「えっ」
「注意もしているし、弁護士もたてたからもう問題はない」