高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―



嬉しいけれど、もっとしっかり上条さんの気持ちを確認しないと、先に進んではいけない気がした。

でも、自分でもなにが引っかかっているのかがわからずに黙っていると、上条さんが私の頬に手を伸ばす。

顔の横に落ちた髪を耳にかけてくれる優しい手つきに胸を跳ねさせた私を、上条さんの真っすぐな目が見つめていた。

「おまえはたぶん、安心して片想いできる相手だったら誰でもよかったんだろ」
「……え?」

耳を疑って聞き返した私に、上条さんがなんでもない顔で続ける。

「恋愛体質のおまえは、戸川との一件以来、恋愛感情の向ける先がなくなり持て余していた。そんなとき、ひと晩過ごした相手がたまたま手が届かなそうな男だったから、これなら一方的に好き好き言っていてもどうせ振り向かないだろうと思い、恋愛感情の発散のために俺に近づいた」
「恋愛感情の発散……?」
「まぁ、タイプだとかそういうのに合ったっていうのもあるんだろうが、どうしても俺じゃなければならない理由はなかったんだろう。違うか?」

悪気のない顔で聞かれても、答えられなかった。
淡々と告げられた言葉がショックすぎて声が出ない。

そんな私の様子に気付いた上条さんが、「ああ、悪い。言い方が悪かった」と謝る。

その顔は今までと同様に無表情なものだったけれど、彼に私を傷つけようという意思がなかったのはわかるので、ひとつうなずいた。