高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―



「これ、すごいですね。口に入れた途端にとろけていって……すごく美味しいです」
「そうか」
「え、これ美味しい……なんのコクだろう。わ、こっちも美味しい」

独り言のように言いながら感動してから、ふと我に返り顔を上げた。

「あの、すみません。うるさかったですか?」

ただ、すごいすごい、美味しい美味しいと食べていたけれど、向かいの席で上条さんが笑っていることに気付いて焦る。

上条さんは尚も笑いながら「いや、うまいとしか言わないからおかしかっただけだ」と言っていたけれど、そのうちにハッとした。

今日のこれは試食会だ。だとしたら、私もただ美味しいと喜んでいるのではなく、もっと具体的で専門的な意見を言った方がいいのかもしれない。
不安になり、上条さんに話しかける。

「あの、このお店ってまだ開店前なんですか? 携帯で調べても出てこなかったので」
「ああ。今日は試食会とプレオープンで何組か入れているが、正式なオープンは半月後の予定だからな」
「すみません、そんな大事な日にお邪魔してしまって……しかも、舌もこえていないので何食べても美味しいとしか言えなくて申し訳ないです」

こんなんじゃなんの参考にもならない。
だから謝った私に、上条さんはナフキンで口元を拭いながら答えた。