高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―



〝俺を見ろ〟という無言の命令に唇をかみしめる。

頬から伝わってくる上条さんの体温があたたかくて、それがじわじわと体のなかまで入り込んでくるようだった。

「あいつを好きだったのは昔の話で、今は俺が好きなんだろ? それなのに、俺があいつを理由に避けられるのはおかしい」
「それ、は……」
「もしも今後おまえが傷つくにしても、それはあいつじゃなくて俺のせいだ。この先、おまえに触れるのも傷つけるのも、誰でもない、俺だ。覚えておけ」

目に涙がたまっていく。
それが粒となって零れ落ちる直前で、上条さんの指が拭った。

涙のせいでどんどん揺れる視界の先、上条さんが尚も私を見つめる。

「おまえが今好きなのは俺なんだろ?」

再度確認され……考えるよりも先にうなずいていた。

ずるい。
こんなのは、ずるい。

こんな……上条さんの想いがこれでもかってほど眼差しからも体温からも伝わってくるなか、違うなんて言えるわけがない。

暗に、過去の傷ではなく、今、目の前にいる上条さんを見ろと言われているようだった。

勝手だと思う。
それができないから怖いのに、そういう私の気持ちを上から押さえつけて言うことを聞かせる。

上条さんはそういうところがある。

でも……その傲慢さにホッとして救われる。