高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―



「しばらくは一緒にいただけでした。でも、そのうちに戸川が触れてくるようになって……お互い、恋人と別れて半年くらいが経った頃でした。その頃には、私は戸川に惹かれ始めてたから、受け入れました。戸川も同じ気持ちだと思ったから」

〝付き合おう〟だとか〝好き〟だとか、言葉はなかったけれど、両想いだと思い込んでいた。

私と戸川はただ同じ傷を負った経験がある、というだけで、それ以外の気持ちまで共有なんてきるわけがなかったのに……戸川もきっと私と同じ気持ちだろうと、信じて疑わなかった。

一度裏切られた者同士だから、きっと裏切る側に回るようなことはないだろうと勝手に決めつけていたのだと思う。

膝の上で組んだ両手に、自然に力がこもっていた。
思い出の中からじわじわと襲ってくる恐怖を誤魔化そうと、落ち着きなく指を動かしながら続ける。

「私、勝手に付き合ってるつもりだったんです。でもある日、戸川が私の他にも誰かいるような発言をして……確認したら〝いるよ〟って。名前が挙がった子は私の友達でもあったから、私は驚いて言葉が出なかったけど、戸川は全然悪気なんてないみたいに普通に話していて、それを見て、ああ、私がひとりで勘違いしてたんだって気付きました」