高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―



タクシー運転手に上条さんが告げた住所は、驚くことに彼が暮らすマンションだった。

「え……あの、いいんですか? 私なんかに自宅を教えちゃって……カフェで待ち伏せするような女ですよ。今までストーカー被害にもあったって話なのに」

タクシーから降り、マンション前で言う。

エントランスまでは緩やかなスロープが延びていて、まず50メートルほどあるその長さに驚いた。外観のためにこれだけの敷地を贅沢に使っているのが信じられない。

スロープの両側には幹の細い木々が植えられていて、間接照明でライトアップもされているためとても綺麗ではあるものの、なんだか立ち入ってはいけない場所に入り込んでしまったような気分だった。

綺麗なオフホワイトのタイルをヒールで傷つけてしまったらと思うと、歩くことすら慎重になる。

「あの、本当にいいんですか?」

顔を合わせるたびに好き好き言うような女に自宅を教えて、さらには中にまで入れるなんて正気の沙汰じゃない。
私が言うことではないけれど、迂闊すぎると思う。

バッグを胸に抱き締めるようにして歩いている私を、顔半分だけ振り返った上条さんはわからなそうに眉を寄せた。

「おまえとはもう何度も会ってるし、その上で俺が信頼できると判断したんだ。なにか問題あるか?」

私が答えるより先に、上条さんが続ける。