高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―



上条さんの口から告げられたのは、桃ちゃんに対する好意的な印象で、正直ショックを受けた。

でも……それもそうだ。
だって桃ちゃんがいい子なのは、私の方がよく知っている。

それでもショックだったのは、上条さんがあまり誰かを褒めるところを見たことがないからだ。

不意に、上条さんは私のことを誰かに話すとき、どんなふうに言うのだろうと気になった。
少しくらいは褒めてくれるのだろうか、と。

「桃ちゃんはいい子ですから。一緒にいて楽しいと思うのは、当たり前です。……あ、ここに入ってもらっていいですか?」

ひとり暮らしをしているマンション前の道は、落ち着いて停車できないため、手前にあるマンション専用の駐車場で止めてもらう。

車から降りると、もう二十三時近いため、外は静かだった。

九月に入ったとはいえ、まだ気温は高く、肌にあたる空気は湿度を含んでいる。
まだ秋の気配は感じない。

「上条さん、今日は本当にありがとうございました」

助手席のドアを閉める前に体を屈めてお礼を言う。
笑顔を作ったつもりだったのだけれど、私の顔をじっと見た上条さんはなにか言いたそうに目元を歪める。

そして、運転席のドアを開け、外に出た。

なんだかよくわからないまま見ていると、助手席側に回った上条さんが開けっ放しになっていたドアを私の代わりに閉める。