高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―



「なんで……」と小さくもれた声を拾った上条さんが不機嫌そうな顔で私を見る。

「そいつが電話よこしてきたからだろ。荷物はこれだけか? 車で送ってやるから早くしろ」

私のバッグを持った上条さんは、まだ状況がつかめずにキョトンとしている後藤を見てから、カウンター内のバーテンと言葉を交わす。

それから、また後藤に視線を戻した。

「美波が迷惑をかけたな。この店の支払いは俺が持つ。ボトルも一本入れておくから好きに飲んでくれていい」

そこで一度切った上条さんがすっと冷たく目を細めて続ける。

「さっきの話続きのだが、女なら誰でもいいなら、こいつはやめろ」

話している間も、上条さんはずっと私の腕を掴んだままだ。
後藤に向けている静かな苛立ちを含んだ瞳も、強引な手も、〝美波〟といういつもとは違う呼び方も、初めて知る上条さんばかりで困惑していた。

突然の上条さんの登場に呆然としていた後藤だったけれど、ようやく平常心になったようで、いつも通りのヘラッとした笑みを浮かべる。

「えー、なんでですか? 高坂のこと好きじゃない上条さんには、俺が高坂をどうしようと関係ない話ですよね。俺が高坂を適当に扱ってボロボロに傷つけても別に上条さんには……って、そんな顔して睨まなくても。冗談ですって、すみません」

最後、苦笑いになった後藤が私を見る。

「ほらな。やっぱり俺の勘はあたるんだよ」

得意そうな顔をされたけれど、一連の出来事がまだ消化できず、なにも返せなかった。