高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―



男性は、上条さんが指示を出すと、テーブルの上にあったノートパソコンを持ち席を離れたので、圧力が弱まり少しホッとする。

座ったので視線が低くなり、自然と天井に目が向く。わざとむき出しになっている(はり)がとても雰囲気があり思わず見入る。

二階建てだから、当然二階にもフロアがあると思い込んでいたけれど、二階はそれぞれの壁から二メートル弱ほどの通路がぐるっとあるだけで、中央は吹き抜けとなっていた。

贅沢な空間の使い方で、開放感がある。

「すごいですね。私、こういうレストランって初めてです」

天井を見上げたまま言うと、上条さんも同じように視線を上げた。

「ここは、元々は一軒家だったから造りが変わってるんだ。前のオーナーが二階の床をとって吹き抜けにしたらしい。席数を考えるなら二階部分もあった方がいいんだろうが、吹き抜けのこの空間を一度見たら、一階と二階を区切るなんて考えられなくなった」
「え……あの、上条さんって、この建物の建築に関わった方なんですか?」

やけに詳しいので聞いた私に、上条さんは不思議そうにしてから、「ああ、自己紹介がまだだったな」と言い、名刺を差し出した。