高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―



確信を持った眼差しで聞かれる。

秘書だから、何度会ったかだとかそのへんもそこそこ把握しているんだろう。
上条さんは仕事の合間に誘いの電話をくれることも多いから、そのとき緑川さんが近くにいる可能性は高い。

「会ってはいますけど、こういう話はしません。上条さんは弱音だとか愚痴を言う時間は無駄だと考えてるって言ってたので。それに私も、せっかく上条さんと一緒に過ごせる時間をそんな話題で埋めたくないし」

私が上条さんの前では元気でいたいから結果的にそうなっているだけだ。
無理して明るく振舞っているわけじゃない。

誰だって好きな人の前で愚痴ったりしたくないはずだ。

「ところで、緑川さんは今日はもう仕事終わりなんですか?」

カフェラテをひと口飲んでから聞くと、「まだ仕事中です」と返ってくる。

「あ、そうなんですね。秘書の緑川さんがひとりで単独行動ってあまりなさそうだから、てっきり終わったのかと」
「基本的には社長の補佐なので行動はともにしていますが、その日の仕事内容によります。今日は社長が会食予定なので、それが終わるまで別行動なんですよ」

緑川さんが私をじっと見据えて続ける。

「会食の相手は、佐々岡桃さんです。社長は仕事とは関係なく会うと話していましたが……高坂さんのご友人なんでしょう?」

〝会食〟という単語が出てきた時からドクドクと不穏な音を響かせていた心臓。
割り切れない自分に嫌気を感じながら、苦笑いをこぼした。