高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―



その日、仕事を終え携帯を確認すると、桃ちゃんからメッセージが届いていた。

〝今日、上条さんと会ってくるね〟

短いメッセージを見た途端、心臓が止まった気がした。本当に息苦しくなったので、軽くトントンと胸を叩いて自分自身を落ち着かせる。

〝今度上条さんとふたりで会ってきてもいいかな〟

そんなメッセージが届いたのが、月曜日。
考えた末の私の返事は〝もちろん〟だったから、そこから桃ちゃんは上条さんに連絡をとって、今日、木曜日会う約束をしたってことだ。

私は上条さんの彼女じゃないんだし、桃ちゃんに〝会わないで〟と言う権利はないし、桃ちゃんが上条さんを好きになったところで反対する権利もない。

魅力的な上条さんに桃ちゃんが惹かれるのは当然のことだし、逆もしかり。誰も悪くないのだ。

それでも、気持ちはどんどんと落ち込むばかりで、ただどんよりした気分を背負いながら歩いていたら、いつの間にか上条さんがオーナーを務めるカフェの前だった。

どうせこのまま家に帰ってもひとりでため息をついて過ごすだけなら、せめて売り上げに貢献しようと思い立ち寄る。

アイスカフェラテを頼んで、以前上条さんと来たときと同じ、窓際の席に腰を下ろす。

ガラスの向こうの夜空を、いつ雨が降り出してもおかしくないほど分厚い雲が覆っていた。

折り畳み傘は持っているし、お店に迷惑にならない程度にぼんやりとさせてもらおうと外を眺めていたとき、グラスがテーブルに置かれる。