「高坂さんさ、そういう減らず口ばっかり叩いてると、彼氏ができないどころか上司にだって嫌われて出世もできないよ。もっと可愛らしくできないもんかね。たまには肩くらい揉んでくれてもいいと思うんだけどなぁ。水出さんを見てみるといいよ。あんな模範社員、他にはいないから」
パワハラセクハラのオンパレードの発言を右から左へ聞き流し、視線で水出さんを探す。
顧客名簿の棚前でファイルを手にしていた水出さんとは、すぐに目が合った。
私が見る前からこちらを見ていたのかもしれない。
すぐに目を逸らした水出さんに視線を留めたまま、まさかなぁ……と眉を寄せる。
〝熟女キラー〟の後藤。
〝熟女〟と言える年齢の水出さん。
そして、後藤と仲のいい私。
水出さんほどの人が、嫉妬で私に冷たくあたるとも思えないし、まず後藤に惹かれるはずがない。水出さんに合う男性は、もっと紳士的で素敵な男性だ。
それに私は後藤と付き合っているわけじゃないし、以前、水出さんとそんな話になった時にもハッキリそう伝えている。
「水出さんは、本当に社会人としても女性としてもこれ以上ない完璧な人だよなぁ」
私のデスクの脇に立ったまま水出さんを見て呟く部長を思わず見上げる。
まさか女性として好きなんだろうか。
だとしたら、こっちは身の程知らずだとしか言いようがないな……と思いながら、さきほどの顧客に電話を返すために受話器を持ち上げ、強引に部長を追い払った。



