困惑しながらも、言われっぱなしになるのは癪だったので言い返す。
この男性のさっきまでの態度は、そのまま流せるようなものじゃなかった。
じろっと見て言った私に、男性は不満そうにしながらも「すみませんでした」とボソッと謝る。
なので、「いいえ」と笑って許すと、男性は理解できなそうに眉を寄せたあと、体を横にずらした。
「どうぞ、こちらへ。社長がお待ちです」
男性に案内されるまま、あとをついていく。
店内は暖色の照明に照らされていた。
広いフロアの中央に調理スペースがあり、その周りをカウンター席がぐるっと囲んでいる。さらにその周りに、ふたりから四人掛けのテーブルが置いてあった。
調理スペースにある鉄板の上ではなにかがジュウジュウと音を立てて焼かれていて、香ばしい匂いが店内に広がっている。
オーク色の床材に白い壁。黒で統一されたテーブルと椅子。シックでとても洗練された空間に思え、腰が引ける。
お客さんの入りは六割ほどだけど、その誰もが上品に食事を楽しんでいるものだから自分が場違いに思えて仕方なかった。
間違えても試験帰りにふらっと寄るようなお店じゃない。
ジャズのBGMがうっすら流れる店内を進むと、一番奥のテーブルに、お守りを踏んだ男性、上条さんの姿を見つけた。
テーブルの上にはノートパソコンがある。仕事をしていたようだった。
「社長。いらっしゃいました」
上条さんの視線が私を捉える。
日中とは違い、雰囲気のある場所で見る上条さんはより顔立ちの良さが強調されていて、ドキッと胸が高鳴った。



