高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―



だから「すみません……でも、イラッとしてくれたの、嬉しいです」と笑うと、上条さんはそんな私をじっと見たあと、立ち上がる。

そして距離感なんて無視して私にどんどん近づいてくるものだから、ぶつからないよう後ずさった。

「あの……?」

じりじりと誘導されるまま動き、私の背中が店舗の壁にぶつかりそうになったところで、上条さんが止まる。

戸惑いながら見上げた先にあった、上条さんの真面目な顔に心臓がドキッと跳ねた。

上条さんが、私の顔の横の壁にそっと手を置く。
いわゆる〝壁ドン〟をされ、それだけでも内心パニック状態なのに、さらに顔を覗き込むようにじっと見つめられる。

面白いほど目が泳いでいるのが自分でもわかるほどだった。

「〝好きな男〟にこういうことをされるのは、どういう気分だ?」

とんでもない質問をされ、困惑する。
からかわれているのか、それとも恋愛感情がわからないための純粋な疑問なのか。

もしかしたら、高校時代の担任が書いたという恋愛小説にこんなシーンが出てきたから実践してみたのかもしれない。

ぐるぐると色んな可能性を考えながら「えっと」となんとか口を開く。
上条さんの存在をこれでもかというほど感じ、胸が高鳴りっぱなしだった。