高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―



「木曜日に店に顔出したとき、スタッフから聞いた」
「え……私、スタッフの間で話題になるほど怪しかったですか?」

普通にカフェラテを飲んでひと息ついていたのに……もしかして、ひとりだっていうのにうきうきしすぎてたとか? それともかなり迷惑な客だった?

本やパソコンを持ち込んで長居する人は結構見かけるし、満席じゃないことは常に確認していたから、そこまでお店側に迷惑をかけていたつもりはなかった。

でも、一日にきっと百人近くは相手にするスタッフが私を覚えていたなら相当だ。

なにかまずい行動があったのかもしれない……と一気に不安が押し寄せ血の気が引く。

必死にあの日のことを回想していると、上条さんは「そういう意味じゃない」と否定してから、やや言いにくそうに口を開く。

「おまえがひとりで待ち伏せるだとか言ったんだろ。だから、スタッフに聞いたんだよ。十八時過ぎにひとりで長時間いた女性客はいたかどうかを。そしたら、今週に入ってから数人はいたって言うから、もしかしたらって思ってただけだ」

少し不貞腐れたような言い方ではあったものの、まさか私の来店を気にかけてくれているとは思ってもみなかったから驚いた。

お店に迷惑はかけたくなかったから、満席になったら出ようと意識はしていたにしても、私のことを好きでも何でもない上条さんからしたら、勝手に待っていられるなんて不快でしかない行為だし、恐怖ですらあると思う。

私は、自分がもう気持ちを伝えているのをいいことに、欲望のまま好き勝手行動している自覚がある。
だから……とても驚いていた。