上条さんは、約束通り一時間で私たちがお茶をしていたカフェまで来てくれた。
そこからタクシーで移動した先は上条さんと初めて食事をしたレストラン。
あの時は試食会だったけれど、つい数日前に無事オープン日を迎えたお店はとても賑わっていた。
あれからそんなに日は経っていないのに、なんだかとても懐かしい気分になりながら席に座る。
上条さんが連れてきてくれたのは、大学時代からの友人で、顔立ちが甘く整っている稲垣さんという男性だった。
男性と女性に分かれ向かい合うように座り、軽く自己紹介したあと、運ばれてきた料理を食べながら談笑する。
稲垣さんが高校までは海外で過ごしていた帰国子女だと聞き驚いていると、上条さんが「紳士的な男がいいって言っただろ」というので、おかしくなり桃ちゃんと顔を合わせて笑った。
もしかしたら、紳士的イコール、レディーファースト、イコール帰国子女という連想をして稲葉さんを連れてきてくれたのかなと思うと、嬉しかったし面白かった。
忙しいのに、私のお願いを聞き入れてくれたことも、こうして会えたことも、とても嬉しくて仕方なくて、桃ちゃんに呆れて笑われる程度には顔が緩んでいた。
食事を始めてから一時間。
稲垣さんはとても穏やかで優しい人で、桃ちゃんも楽しそうにしていてホッと胸を撫でおろしていたとき、デザートを食べ終えたタイミングで上条さんに「ちょっと来い」とお店の外に連れ出される。
八月で日が長いとはいえ、さすがに二十時近い空はもう夜一色だった。



