高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―



「こちらの意見を聞かず一方的に決めつけて話を進めるのはやめてください。私は約束をすっぽかすのが嫌だからここに来ただけです。それに誰と誤解しているのかはわかりませんが、私は、遊びでそんな関係になるのは嫌です。気持ちが一方通行なのにそんなことしたって、後々虚しくなるだけじゃないですか」

眉を寄せて言ってから、ショップカードを見せる。

「今日のお昼過ぎ、駅前でお守りを踏まれたんです。そのお詫びとして食事をご馳走してくれるってショップカードを渡されたので来ただけです。嘘じゃないです」

カードを見た男性は、目を見開き……それから私をじろっと見た。

「お守りを踏んだという男性の特徴は?」
「美形で背が高くて、まるでモデルみたいな男性でした。あ、これが踏まれたお守りです」

証拠としてボロボロのお守りを見せると、男性は携帯を取り出してどこかに電話をし始めた。
そして、十秒ほどで電話を切ると、私を見て気に入らなそうに言う。

「社長に確認がとれました」
「社長……あの、私のお守りを踏んだ男性のことですか?」
「そうです。上条プロダクツの社長を務める、上条智司(かみじょうさとし)です」

想像もしていなかった答えにびっくりして、思わず声を失う。

だって、社長って……まさか三十代そこそこでしかない男性が社長だなんて思わなかった。まだ芸能人だと言われた方がしっくりきたかもしれない。

「そうなんですね。それで……誤解は解けましたか? 私のこと、貞操観念のない女みたいに言ってましたけど」