エレベ-タ-の扉が開くのももどかしげに、目的のフロアに降り立った2人に


「おはよう。」


滝は呼び掛けてくる。息を弾ませ、自分の前に立った2人に


「どっちが気付いたんだ?」


尋ねる滝。


「えっ?」


「ずっとアホ面して、下で俺を待ってるかと思って、そろそろ電話しようと思ってたんだが。」


そう言って、滝はニヤリを笑った。あまりの言い草に、一瞬言葉を失った2人だが、気を取り直すと


「いつからここにいらっしゃったんですか?」


友紀がなんとか平静を保ちながら聞く。


「1時間くらい前かな。」


平然と答えた滝は


「ここはもういい。じゃ、次の場所に行くぞ。」


二の句が継げなくなっている2人を尻目にスタスタと歩き出す。思わず顔を見合わせた2人だが


「ちょっと次長、待って下さい。」


慌てて、後を追い掛けるしかなかった。


3人となった一同は、滝の乗って来た社用車で次の目的地に向かう。


運転しますと申し出た漆原に、いいと答え、自らハンドルを握った滝は、助手席に座らせた漆原に、矢継ぎ早に質問を浴びせかけている。


(それにしても・・・。)


その様子を後部座席から眺めながら、友紀は考えていた。


(この車、乗って来るのに、この人、何時に会社に行ったんだろ?)


社用車の自宅乗り帰りは、公用の為でも認められていない。朝、この車を取りに会社に行き、それから自分たちよりも1時間も前に到着していた滝。


彼の自宅の所在地は知らないが、相当な早起きだったに違いない。


(今日の移動距離を考えれば、車は必須だけど・・・パワフルな人だ。)


まだ接して2日目を迎えたばかりだが、仕事には相当厳しい人物だし、「やり手」の評判に間違いはなさそうだと、友紀は思わざるを得ない。


午前中にもう1箇所。その後、昼食を摂るために寄ったファミレスで午後は3箇所を回る予定と聞いて、友紀と漆原はまた顔を見合わせる。


この人、食事の時は、どんな話題を振って来るんだろうと、身構えながらも、少し楽しみにしていたのだが、オーダーをしたあとは、あとは食事が来るまでは、ひたすらノートパソコンとにらめっこ。どうやら、午後に周る物件の資料に目を通しているようだ。


昨日の今日で、出会ったばかりだというのに、どうやら自分のことを知ってもらおうとか、逆に部下のことを知ろうとかという気はサラサラないようで


(凄い人だな・・・。)


呆れ半分、感心半分で、友紀はその姿を眺めていた。