村田との話を終えた友紀が、やや固い表情で足早にエレベ-タ-に向かっていると、葉那がこちらに歩いて来るのが見えた。


「友紀!間に合ってよかった~。」


手を振りながら近づいて来る葉那に、友紀も表情を和らげる。


「友紀、本当に行っちゃうんだね。」


オフィスから引き上げた私物や花束を抱えた友紀を見て、葉那は寂しそうな表情を浮かべる。


「はい。でも、昼間も言いましたけど、同じ本社勤務ですから。また、一緒にお昼食べたり、アフタ-5しましょう。」


「うん、約束だよ。」


そう言って笑顔を交わし合う2人。だが、すぐに友紀は表情を固くすると


「ところで葉那さん、次長は・・・?」


なぜか遠慮がちに尋ねる。


「あれ?さっきまで一緒だったのに・・・どこ行っちゃったんだろ?」


そう言ってキョロキョロと周囲を見回す葉那に


「そうですか・・・。じゃ、失礼します。」


ちょこんと頭を下げると、慌てたように友紀は歩き出す。その後ろ姿を意味深な笑みを浮かべながら見送っていた葉那は


「頑張れ。」


とそっと呟くと、オフィスに向かって、歩き出した。


エントランスに降り、受付で確認すると、葉那の帰社時間は記入されているのに、滝の欄は空欄のまま。


(どこ行っちゃったのよ?なんで最後に、なにも言ってくれないの・・・?)


憤りの表情を隠さずに、中に戻ろうとした友紀の後ろに


「そんなに慌ててどうした。」


尋ね人が立っていて、思わず足を止める。少し見つめ合う形になった後


「次長!」


怒ったように声を上げた友紀に


「意外と持ち帰る荷物がまだあるんだな?」


そう言って笑顔を向けた滝は、サッと友紀の手から荷物を取ると


「行くぞ。」


と言って、スタスタと歩き出す。一瞬唖然とした友紀だが、すぐに我に返ると、慌てて滝のあとを追った。


会社の建物を出て、ズンズンと進んで行く滝に


「どこへ行くんですか?」


やや息を弾ませて、友紀は尋ねる。


「あそこの地下のパーキングだ、自分の車を停めてある。今日は俺は外出直帰だからな、今夜はもう自由の身だ。」


そう言ってニヤリと笑った滝は


「送ってってやるよ。」


「えっ?」


「明日、陽葵をドライブに連れて行く約束をしてるんだ。だから、今日はこれから実家泊りなんで、そのついでだ。」


戸惑う友紀を尻目に、またすたすたと歩き出す。


「待って下さい。」


荷物を取られている友紀は、ついて行くしかない。