「ねぇマーくん、マ-くんってば。」


その声に滝がハッとすると、そこにはプッと頬を膨らませながら自分を見ている姪の顔が。


「お、陽葵、どうした?そんな膨れ面して。」


「だって、さっきから呼んでるのに、マーくん、全然返事してくんないんだもん。」


「そうか、ゴメンゴメン。で、今度は何に乗る?」


「だから、ブランコのとこに行くって言ってるじゃん。もういい、陽葵ひとりで行く!」


そう言うと膨れ顔のまま、駆けだして行く陽葵。


「おい、そんな走ったら、転んじゃって危ないぞ。」


「平気、もう陽葵は子供じゃないもん。」


(いやいや、十分子供なんですけど・・・。)


心の中で5歳児にツッコみながら、やはり心配で、追いかけようとすると


「大丈夫よ、そんなに御付きの人みたいに、くっついて歩かなくても。過保護は禁物、慎也さんにもそう言われてるんだから。」


側のベンチから咲良の声がする。週末の公園、滝は咲良、陽葵母娘のお伴でここにいた。


「だけどな・・・。」


「いいから、見える範囲にさえいれば大丈夫だから。それより、今日はどうしたの?なんかボンヤリしてる時間が多いけど?」


「・・・。」


「疲れてるんなら、無理しないで、家で寝てればいいじゃない。」


「べ、別に疲れてなんかいねぇよ。疲れてたとしても、陽葵の顔を見れば、全部吹っ飛ぶ。」


そんなことを言いながら、滝は咲良の横に腰を下ろす。


「それにしても、兄貴はあんな可愛い盛りの娘を放り出して、いつまで単身赴任なんかしてるんだ?」


「仕方ないじゃない、仕事なんだから。」


「仕事と娘とどっちが大切なんだ?そのうち陽葵に顔、忘れられちまうぞ。」


「えっ?仕事の鬼と部下から陰口叩かれてるあんたがそれ言う?」


「なんで、それを知ってる?」


驚く滝に


「この前、友紀ちゃんから聞いた。」


いたずらっぽい表情で答える咲良。


「えっ?お前、杉浦に会ったのか?いつ?」


「この前の水曜。お昼に幼稚園の前でバッタリ会ってさ。その時はお互い時間なかったから、改めて待ち合わせて、一緒にお夕飯食べたんだ。」


「お前も杉浦も、そんなこと一言も俺に・・・。」


「そんなのいちいち、あんたに報告する義務ないでしょ?私も友紀ちゃんも。」


「・・・。」


「それでさ、もう1人、凄い人に会ってさ。誰だと思う?」


「わからん。」


「優美先生だよ。」


咲良の口から出たその名前に、滝は驚きの表情を浮かべる。