たぶんもう愛せない

カチャ

ドアノブが回る音がした、慌てて立ち上がるとスマホのカメラレンズの部分だけを壁から出してドアに向けると海がドアから出てきたところだった、その後ろには豊満な乳房を隠すことなくガウンだけを羽織った弥生が出てきた。
扉は開けっ放しで海の頬に手をかけるとキスをねだるような仕草をし、海はそれに応えていた。

あの胸、作り物だ。

自分の夫の不倫現場を見ても、考えたのはそんなことだった。


弥生は部屋に戻り、そろそろ海も部屋に入るだろう、そして何食わぬ顔でベッドで寝ている新婦の隣に入ろうとしたが、妻がいない。
トイレやバスルーム、ベランダを探すだろう。

そろそろ部屋に帰ろう。
スマホをポケットに入れ代わりに目薬を取り出すと、廊下を歩き始める。

どんな顔で出迎えてくれるだろう。

カードキーを入れるとピッと音がして解錠した。

あの部屋から海が出てくる時と同じカチャというドアノブの音とともに室内にはいると、青い顔をした海が走ってきた。

「どうしたの、心配しただろ!何処に行っていたんだ」

よく言う。

「私も目が覚めたら海が居なくて、トイレかと思っていたのに全然戻ってこなくて、部屋中探したけど居なくて、うっうっ」

最高に沁みる目薬を大量にさしたため、目薬だけでなく本当に涙が出てきている。

「1時間以上も戻って来ないから、うっうっ」

「えっ?ごめん」

「うっうっ、結婚式の日に捨てられたんだってどうしていいかわからなくてエレベーターに乗ってみたけどどこを探せばいのかわからなくて」
両手で顔を覆いながら鼻を啜る、顔を隠しておかないと焦る海が面白くて顔がにやけそうになる。

海は私を抱きしめながら「ごめん」とつぶやく。

どんな言い訳をするのか楽しみだけど、いくらフロアは2部屋しかないといっても胸をだしたまま廊下にでてくるような女を抱いてきた手で抱きしめられるのは吐き気がする。

「結婚式で興奮したようで眠れなくなったらトレーニングルームに行ってたんだ。メモを残していけばよかったよね、本当にごめん」

「私の方こそごめんなさい」

泣き続ける私に、備え付けてあるティーパックで紅茶を淹れそこにウィスキーを垂らして持ってきてくれて、それを受け取ると少しづつ飲んだ。

これは安心して飲もう。

「まだ早いから寝ようか」

動画にビニール袋、収穫がたくさんあった。
これでゆっくり眠れる。