「奈緒ちゃんこんなことになってごめん。本当はちゃんと話さないとダメだってわかってたんだ。でも、奈緒ちゃんといると落ちついて、どうしても離れたくなかったんだ」

え?何を言ってんの?
周りにいる人たちも、石井由貴も魂が抜けたような表情で固まっている。

ツッコミどころが多すぎて言葉も出ないでいると岸課長は必死に話を続ける。

「由貴に別れ話を切り出すにも婚約中だから俺から言うわけにもいかず悩んでいたら由貴にバレて、だからその時ちゃんと別れ話をしたんだよ。本当だ」

今度は一斉に石井由貴に視線が集まる。

「でも、由貴が妊娠して別れることができなくなったんだ」

ここでそんなことを言うの?
そうか、岸課長は自分の保身に走ったんだ。
最低、こんな男を好きだったんだ。

私って男運無いな・・・

流石に石井由貴はこの場にいられなくなり走って出ていいた。

「あなたがあの時、ブロックなんかしないでちゃんと話をすることが出来たらこんな事にならなかったかもしれない。石井さんが妊娠しているのなら早くいって慰めないと、身体によくないと思いますよ」


慌てて石井由貴を追いかけていく岸課長の後ろ姿を見送りながら気持ちが沈んでいくのがわかる。

岸課長に騙されたことも、あんな風に傷つけた石井由貴のことも仕返しをしたいと思っていた。だから、このくだらない結婚を承諾したのに全然スッキリしない。
むしろ自分自身に嫌悪した。


それでも、あの日の惨めな死を忘れるわけにはいかない。
また、あんな死が待っていていたとしてもあの女を道連れにしないければ私がこの世界に戻ってきた意味がなくなってしまう。