スマートフォンを仕舞って立ち上がる翠笑を見ながら、“横取り”されないように來樺院獅紋を守らなければ、と考える。
そこから連想してあることを思い出し、腰を上げて翠笑の後ろ姿を見た。
窓に向かう背中。
1つに結んだ赤茶色の髪が、肩胛骨の間で揺れている。
「翠笑。……私を、恨んでいいから」
「……へ?」
間の抜けた声を出し、振り向いた翠笑は、金色の瞳を私に向けた。
1週間前、ボスから任務を受けた時、翠笑は躊躇いを見せていた。
直接2人の姿を見た今なら分かる。
翠笑があの時躊躇ったのは、來樺院獅紋を……友達を、殺したくないからだ。
「來樺院獅紋は私が殺す。翠笑の手は借りない」
「……」
翠笑は足を止めて私を見つめる。
それから、こちらに戻って来て、嘘くさく笑った。
「ね、抱き締めていい?」
「……いい、けど」



