「そうだったかな~? 氷霞ちゃんって本名は?」
切り揃えたストレートボブの髪に手を伸ばして触れながら、翠笑はさらりと聞いてくる。
仕事仲間でも、教えないことはある。
けれど、正体に関することを先に聞いてしまったのは私だし、別にいいかと右手をベッドに戻した。
「覚えてない」
「覚えてない? って、どういうこと?」
「そのまま。ボスがくれた名前が私の名前」
氷霞という名前は、私が殺し屋になる時にボスがつけてくれたものだ。
それ以前は他の呼び名があったのだろうけど、不思議なことに、何と呼ばれていたか今は全く覚えていない。
ボスに聞けば分かるかもしれないけど、自分の本名なんて興味が無いから、多分その機会は無いだろう。
「……氷霞ちゃんが殺し屋になったのって、何歳だっけ?」
「10歳」
「ふぅん……まぁ、そういうこともあるのかな」



