じっとその後ろ姿を見つめて、ようやく気が付いた。
彼女から、足音がしなかったのだ。
「黒塚さん? どうかされました?」
「……ううん。何でもない」
今日は“普通”に紛れる為に、足音を消さないよう気をつけていた。
だからこそ気付いたのかもしれないし、だからこそすぐに気付けなかったのかもしれない。
まぁ、類家胡桃も足音はあまり立てない方だし、気にする程のことでは無いだろう。
私はこの時の違和感を早々に忘れて、類家胡桃と自室に戻り、シャワーを浴びた。
「ふぅ……今日は、疲れたな」
おやすみと、少し早めに挨拶を交わして私室に入った私は、濡れたままの髪にタオルを被せて思わずそんなことを呟いた。
これも任務の一環ではあるけど、今日は“仕事”もしていないし、肉体的な疲労はそれほどでも無い。
どっと疲れたのは、精神の方だ。



