獅紋くんを殺し損ねていた。
そして、千化は獅紋くんの生死に関心が無い。
それは、いいことだ。
獅紋くんが死なずに済むなら、それに越したことはない。
でも。
「悩んで、悩んで、答えを出したのに……っ! 獅紋くんを殺すつもりで、背中を刺したのに……! 全部、意味が無かったなんて……っ」
「……うん。辛かったよね……。僕を選んでくれてありがとう、氷霞ちゃん」
翠笑にそっと抱き締め返されて、顔を上げた。
いつの間にか、翠笑は赤茶色の髪と金色の瞳に戻っていて、獅紋くんと同じ熱が秘められた金色の瞳を、じっと見つめる。
やり切れない思いも、ズキズキと痛む胸も、全部、翠笑に吐き出して、溶かして、ただ心を埋めてくれる心地好い熱を感じていたい。
「ごめんね、翠笑……ううん、夜唄くん。私、獅紋くんも好きなの……」
浮ついた最低な心の内を告白すると、“夜唄くん”は目を大きく開いて、ぎゅっと私を抱き締める腕に力を入れた。



