來樺院獅紋の言葉を先取りしたのは、茶髪に赤目の男子だった。
気さくな印象を受ける彼の隣には、類家胡桃が立っている。
來樺院獅紋は後ろから来る茶髪の男子に目を向けて、私に視線を戻した。
他のクラスメイトはすっかり遠巻きになって、私の周りには來樺院獅紋と翠笑、茶髪の男子と類家胡桃の4人が集まる。
他に近付いてくる人がいないあたり、來樺院獅紋と親しい仲なのはこの3人だけなのだろう。
思いの外、私に有利な状況だ。
「白蓬李璃?」
尋ねる意味を込めて、首を傾げながらその名前を繰り返す。
聞き覚えは無いが、響き的に女性の名前だろうか。
來樺院獅紋は私の反応を見て、落胆するように目を伏せた。
「俺の、婚約者の名前だ」
「……!」
婚約者。そんなものがいたなんて。
ボスからも、翠笑からも、そんな情報は聞いていない。
……これは、苦戦するかもしれない。



