Side:氷霞(ひょうか)




氷霞(ひょうか)ちゃん、人払い完了したよ。いつでもどうぞ〉




沈んだ太陽の代わりに人工の光が街を埋め尽くす。

高く高くそびえ立ったビルの屋上に佇むのは私1人。




「了解。突入する」




右耳のイヤホンから聞こえた声に返答して、背にしていた柵に体を向ける。


足1つ分も無い屋上の縁から、踵を後ろにずらして宙に身を投じれば、私の体は重力に従って落下した。



着地までは、2秒とかからない。


風で浮かせた氷の板に足をつけて、明かりが漏れる大きなガラス窓の向こう側を見据える。



――“派手”に。



私に気付いてガタガタッと席を立つターゲット達を見ながら、氷の槍を大量に作り、目の前の強化ガラスを突き破った。


パリンッと夜のビル群に響くはずの音は、一切が誰の耳に届くことなく、沈黙する。