「魔導警察に訴えるのもダメよ? 氷霞がその手で來樺院獅紋を殺せば、翠笑は殺さないであげる。あぁ、翠笑を見捨てて、來樺院獅紋と逃げてもいいわ」
この人は、獅紋くんと翠笑の命、どちらかを選べと言ってるの?
そんなの、選べるわけがないのに。
頭がおかしくなりそうだった。
闇の深淵に突き落とされたように、恐怖と絶望が私の体を支配して。
この人を殺してしまえば、と頭の片隅に暗い思考が浮かんでも、敵うわけがないとこれまでの経験が否定してくる。
ならば逃げてしまえばいい、いいや逃げれるわけがない。
だってボスは神出鬼没で、どこにだって現れるから。
「みんなで逃げてもいいわよ。殺す手間が増えるだけだから」
「っ……」
「感情に従うのもいいかもしれないわね。來樺院獅紋と翠笑、どちらがより好きか。……ゆっくり考えなさい」
ボスの声が、言葉が、頭の中をぐるぐると回って、答えの出るはずがない問題に囚われる。
私は……どうしたら、いいの?



