「蠱惑も、一緒に行こう」
「あら、優しいのね。でもあたしはいいわ。死にたくはないけど、必死になって戻る程の生活でもないもの」
「……そう。分かった」
「そんな悲しそうな顔しないで。あたしは大丈夫よ。元気でね、李璃ちゃん。遠慮無く殴ってやりなさい」
おどけて殴る振りをする蠱惑に頷いて答え、私は振り向かずに翠笑と留置所区域を出た。
魔導警察署内はやはり慌ただしく、私達は騒ぎに身を潜めて裏口を目指す。
足音を殺し、気配を殺し、殺し屋らしい隠密行動で、魔導警察官と遭遇しないよう慎重に。
途中、目立たない場所に鍵束を捨て、裏口までもう少し、というところまで辿り着くと、後ろの方から大きな声が聞こえてきた。
「被疑者が脱走した! 署内を探せ!」
「っ……!」
「やば、もうバレちゃった。急ごう、氷霞ちゃん」
「うん」



