「時間が経てば、自然と落ち着くはずよ。全部、急すぎたの」
「そう、かな……」
「ゆっくり向き合いなさい。生きる為なら、いい子になんてならなくていいわ。恩があっても、憎んでいいのよ」
「……うん」
優しい言葉が、まるで翠笑のようで。
もう一度会いたい、声が聞きたい、あの体温を感じたい、と目を瞑りながら思った。
「そ・れ・と。あなたの婚約者のこと。男って言うのは、心底惚れ込んでいれば、最初は拒絶したって、最後には女に膝をつくものよ」
「……獅紋くんが、私を受け入れてくれるかもしれないってこと?」
「そういうこと。だから、絶望なんてしちゃダメよ。彼は相当あなたに惚れ込んでるし、可能性は低くないわ」
蠱惑の気持ちはありがたかったけど、その言葉は信じなかった。



